第二十四話

タイ語は発音が難しい、とよく言われます。確かに、タイ語の単語は短い音節のものが多いので、発音を少し間違えただけで別の単語に聞こえてしまうことがあり、それが原因でこちらの言ったことが相手に全く伝わらないということもあります。我々外国人が完璧にタイ人と同じように発音することは難しいかもしれませんが、コミュニケーションの行き違いを防ぐために、ある程度正確な発音を習得する必要があるでしょう。自分の話すタイ語がタイ人に伝われば、タイ語の学習も一層楽しくなると思います。

さて、タイ語の発音において特に日本人が苦手とするのは、子音字における無気音と有気音の区別、そして末子音の発音です。今回は無気音、有気音について書いてみたいと思います。

発音記号で表記する場合、有気音がある子音字についてはhをつけて表記します。
k(無気音)、kh(有気音)
c(無気音)、ch(有気音)
t(無気音)、th(有気音)
p(無気音)、ph(有気音)
といった具合です。有気音は息が漏れる音ですが、こちらは意識せず発音すれば出来ている場合が多いです。問題は無気音。息が漏れない音ですが、こちらがイマイチ分かりにくい。

無気音のkを“ガ行”で表記をするテキストがかなりあります(そもそもタイ語をカタカナで表記すること自体お勧めしていませんが)。kを“ガ行”で発音すると、割とkに近い音になるので、タイ人に伝わりやすいという意味では有効かもしれません。しかし厳密にはkと“ガ行”は別の音です。閉めた喉を一気に開けてkɔɔの音を出す練習をしてみましょう。鶏が「コッケコッコー!」と全力で鳴くのを、リアルに真似してみるといいです。恥ずかしがらずにどうぞ。

無気音のtpは日本語にない音ではないので、日本人が発音するのが不可能ということはないのですが、何しろ普段日本語を話しているときに「この“タ”は無気音、この“タ”は有気音」という具合に意識しながら発音しているわけではないので区別をつけるのが難しいだけです。

無気音のtなら、例えばta(タ)でいきますね、発音するとき舌と上顎がくっついたとこから始まります。いつもよりちょっと舌に力を入れて、勢いよく離しながら発音する練習をするとうまくなります。日本語なら、促音(小さい“っ”です)のあとの“タ行“が無気音のtに近いのは、促音のあとにはちょっと詰まって勢いよく音が出るからです。説得(セットクの“ト”)や発達(ハッタツの“タ”)なんかを発音して確認してみてください。日本語の場合、一文字目の“タ行”が無気音になることは少ないので、最初はちょっと難しく感じるだけです。

無気音のpなら、例えばpa(パ)なら上下の唇がくっついたところから始まります。これもいつもより唇に力を入れて、勢いよく発音します。先ほどの無気音tのときのように、日本語の中では、促音のあとの“パ行”は無気音のpで発音されることがままあります。一発(イッパツの“パ”)や執筆(シッピツの“ピ”)などで確認しながら練習してみてください。

最後に無気音のcです。こちらは“ジャ行”で表記しているテキストを多く見かけます。無気音のkを“ガ行”で表したときのように、cを“ジャ行”で発音すると割とタイ人に聞き取ってもらえることからそうしているのでしょうけれど、これも厳密には全く違う音です。日本語で“ジャー”と何度か発音しながら自分の口の中に集中してみましょう。濁音が出るということは口の中のどこかが擦れ合っているわけですが、それがどこなのかを観察してみましょう。舌の両端が上顎とくっついて擦れ合って音が出ていると思います。無気音のcaaは舌の中央が上顎とくっついて擦れて出る音なんです。舌に意識しながら練習すると上手になりますよ。

余談ですが、日本語の“ジャ行”の舌の使い方がタイ子音字のyの音を出すときのものに似ているので、語によっては日本人の“ジャ行”はタイ人にはyの音に聞こえることは興味深いです。逆もまた然りで、タイ子音字のyの音は日本人には“ジャ行”に聞こえることがあるようで、テキストによっては「日本=ジープン(yîipùn)」と書いてありますよね。これも非常に面白いと思います。わたしのイメージとしては「日本国」のタイ語読みを敢えてカタカナで書くのなら、「イ゛ープン」と書くのが一番近いんじゃないかなと思っています。

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