第十三話

私と同じようにタイ語留学していた日本人から、日本語を勉強中だというAちゃんを紹介してもらいました。Aちゃんはバンコク郊外にある大学で日本語を専攻する大学生でした。Aちゃんは東北地方の出身で、バンコクで働いている彼女の兄が学費や生活費を出しているということでした。それまで中華系のJちゃんとその友達の、やはり中華系タイ人しか知らなかったので、私にとってはAちゃんがある意味、初めて知り合った純粋なタイ人だったのかもしれません。彼女は肌が浅黒く痩せていて、目がくりくりとした可愛らしい女の子でした。

タイの大学生は男女とも上は白いシャツ、下は女性なら黒いスカートを、男性なら黒いスラックスを穿くのが決まりになっています。シャツのボタンやベルトのバックルに、それぞれの大学の校章が入っています。そしてタイの大学生は、日本人から見ると中学生や高校生くらいにしか見えないくらい幼いです。Aちゃんとその同級生らが学校帰りにファーストフード店でおしゃべりをする姿や、雑貨を見ながらはしゃぐ姿は、どうみても大学生には見えませんでした。

Aちゃんとその同級生たちと何度か会ううちに、ファーストフード店や食堂に入ってもAちゃんだけ、お腹が減っていないからと何も注文しないことがあることに気づきました。彼女の実家が裕福でないことは、紹介してくれた日本人から聞いて知っていましたので、お金がないから我慢しているんではなかろうかと勝手に勘ぐったりしました。周りの同級生は皆バンコク出身だったので、その中でAちゃんは少し浮いているように見えました。そんなこともあって、Aちゃんと二人で会うときは食事代やお茶代は私が出すようにしました。確かに、私の方が年上ですし、留学しているとはいえ社会人ですので、それくらいのことは当然なのでしょうけれど、次第にそれにも釈然としない気持ちがついて回るようになっていきました。

Aちゃんと市場でなんとなく洋服を見ながら歩いていた時のことです。Aちゃんが気に入った洋服を手に吟味し始めました。

「どうかな、似合う?」

その後も洋服を体に当てたり、裏表見たり、しばらく経ってもその洋服を放そうとしません。

「これ欲しいなぁ」

ちらちらと私の顔を見ながら言うAちゃんでしたが、気付かない振りをしてやり過ごしました。それ以降、Aちゃんともなんとなく疎遠になっていきました。Aちゃんとの出会いでタイ人に対し感じたことは、その後色々なタイ人と知り合っても共通して感じることです。これに関しては次のコラムに書こうかと思います。

ちなみに、タイ語会話の練習が目的でタイ人の友達を探すなら、日本語も英語も出来ないタイ人を探すしかありません。日本語を学習中のタイ人は、向こうも日本語の練習がしたいのでタイ語はあまり話したがりませんし、英語が出来るタイ人だとこちらがタイ語を理解できないと分かるとすぐに英語で説明したがります(ラクなので)。こちらも必死にタイ語で説明する努力を怠りがちです。タイ語しか分からないタイ人であれば、どうにか知っている単語や言い回しを駆使して説明するほかありませんからね。そうは言っても、我々外国人がタイに行ったからといって、タイ語しかできないタイ人の友達をすぐに見つけることは難しいかもしれません。

⇒次へ 第十四話 「ちょっとだけタイ人考」