第十五話

ソーソートーの短期コースは授業が午前中だけだったので、午後の空いた時間は授業の復習に充てたり、タイ人の友達作りに励んだりと有効に使うことが出来たと思います。クラスメートのYちゃんもお酒が好きだったので、Yちゃんとはよくタイのカラオケ屋さんに行ったものです。

ここで“タイのカラオケ屋さん”と呼んでいるのは、タイではよくある長屋の一階部分が食堂になっているようなお店に、カラオケが置いてあるタイプのものです。当時はバンコク中心部にもこういった食堂兼カラオケ屋さんがあちこちにありました。日本のカラオケとは違い、タイのカラオケは他のお客さんがいる前で歌うスタイルのものがほとんどです。流行りの曲で他のお客さんと一緒に盛り上がる、というのがタイでは一般的なカラオケ店です。

私とYちゃんがカラオケ屋さんに行くのは、カラオケを歌うためではありません。お酒を飲みに行くためだけでもありません。当然カラオケの映像には歌詞も流れるので、それを目で追いながら曲を聴くだけでもタイ文字を読む訓練になりますし、お店の人や他のお客さんと話をする機会もあるので会話の練習も出来るわけです。いつしか居心地の良い馴染みの店も出来て、店主とも仲良くなりました。お店の名前は知りませんでしたが、店主がOさんだったので、“Oちゃんのお店”と呼んでいました。Oちゃんのお店に行くと、美人で気さくなYちゃんのおかげで、色々なタイ人が話しかけてくれました。店主のOちゃんが作るタイ料理が美味しかったのもお店の魅力でした。

Oちゃんのお店で会うタイ人たちとの会話は、学校で習ったタイ語を試す絶好の機会でした。しかしながら相手のタイ人たちは、学校で習ったような文章で答えてくれるはずもなく、初めは相手の言うことを理解するのがとても難しく感じました。それでもタイ人たちは皆辛抱強く説明してくれました。

タイ語学習におけるタイ人との会話の練習は、

―自分が習った言い回しをタイ人に対し使ってみて、通じるのか試す
―色々なタイ人の発音を聞いて、耳を慣らす
―教科書の文章とタイ人が話す文章(=実際の会話)がどう異なるのか、というデータを蓄積していく
―タイ人が話す言い回しを真似してみて、使い方や自分の理解が正しいのか検証する

ということの繰り返しだと思います。

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