第二話

プロフィールページにも書いたように、私が初めてタイに行ったのはまさにひょんなことがきっかけでした。

今から二十数年前、当時落ちこぼれ学生だった私は、卒業前の最後の試験まで必修科目を残していたので、卒業旅行がどうのこうのと言っている余裕は全くありませんでした。晴れて卒業できることが決まり、それから卒業式までに残された時間はわずか二週間。このまま卒業して就職となれば、この先まとまった時間をとって旅行などできません。同級生の友人と焦って旅行代理店を訪れたときは既に世の中の学生たちが主要な路線の格安航空券を押さえたあとでした。どこの学校も皆同じような時期に卒業式をしますからね、卒業式間近の帰国便がどこの国からの便もほぼ埋まっている状態だったのです。

予算に限りがあるくせに、ハワイは嫌だの、中国は近すぎるだのとわがままを言う私たちのために旅行代理店の方も一生懸命航空券を探してくれました。そしてやっと見つけてくれたのがタイ行きの航空券です。台北経由のチャイナエアライン。残り二席、閉店まで十分。その時点での我々のタイに関する知識というものは大変乏しいもので、タイは東南アジアの一国という認識くらいしかありませんでした。タイをバックパックひとつで周ったという同級生がいたものの、三百円くらいのドミトリーに泊まっただの、百円で満腹になるだのという彼の武勇伝はむしろタイという国を遠ざけるばかりでした。その頃は私も周りの親しい友人らも皆、西洋の方にしか目が向いていなかったのです。

旅行代理店の閉店まであと数分。これを逃したら恐らく卒業旅行には行けません。なのにぐずぐずと決断しない私たちに、タイに行ったことがあるという旅行代理店の方がおっしゃいました。

「お寺もキレイですし、食べ物も美味しいし、象乗りも出来るし、ビーチもあるし。タイはおススメですよ」

もうこれはタイに行くしかありません。その三十分後には我々はタイのガイドブックを一冊ずつ手にして、翌々日の空港での待ち合わせ時間を確認し別れたのでした。

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