第八話

タイ文字学習の良書に出合えたこともあり、挫折することなくある程度タイ文字の読み書きができるようになりました。文法など何も分かりませんが、文字が分かるので辞書が引けます。二度目のタイ旅行の際に買ってきたタイポップスCDの歌詞カードをノートに書き写して単語を調べてみたりしました。どんなことを歌っているのかが何となく分かって楽しかったです。

文字を勉強する中で、タイ語の発音もどうやら手強そうだということが分かってきました。タイ語の子音の発音には息が漏れる音(有気音)とそうでないもの(無気音)があるというのも難易度が高そうですし、末子音の発音も日本人には区別が付けにくそうなものでした。よく行っていたタイ料理店のタイ人オーナーに、末子音の違う、似たような単語を発音してみてもらっても、どうにも聞き分けられませんでした。

すんなりと次の段階に進みます。

―タイで勉強しよう

当時は、挫折の末にやっとのことで得た職に就きながらも、閉塞感に満ちた毎日を送っていました。年齢的には将来の希望と活力に満ちた、充実した日々を送っていて然るべきなのに、頭の中は常にセックスピストルズ(イギリスの有名なパンクバンドです)の『ゴッドセイヴザクイーン』の一節、“ノーフューチャー フォーユー”というのが果てしなくリフレインされているようでした。そんな中で、「タイに留学する」という突拍子もない思い付きはとても輝いて見え、なにか素晴らしいものを密かに発見してしまったようで、久しぶりに胸の高鳴りを感じたものです。

一応は自分の専攻した分野で仕事をすることが出来て、且つその仕事は天職ではなさそうだということも認識できたので、そのことに自分なりに納得しつつ、日本での職を捨てることには何の抵抗もありませんでした。もしタイ語留学という思い付きがなかったら、ニートになっていた可能性すらあったな、と今思うとぞっとします。

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