第七話

一般のタイ人と話をするためにタイ語を勉強しようと思い立ったものの、何から始めていいものか皆目見当もつきません。けれどタイ語を勉強するにあたって、あの丸っこいへんてこな文字だけは避けて通ることは出来ないだろうという気がしました。

―まず文字を読めるようになろう

大人になってから自分の興味のある新しいことを勉強するのって案外楽しいものです。タイ文字入門の参考書を入手し、部屋にはタイフェス(毎年五月に代々木公園で開催されるタイフェスティバル)で買ったカラフルな子供用のタイ子音字表を貼りました。子供が初めて文字を勉強するときのように、参考書を手本にしながらノートにタイ文字を書いていきます。タイ文字は丸から始まる一筆書きの文字が多いのですが、たまに丸の方向を間違えてしまうのはまさに幼稚園児レベルです。

その時は、タイ語の挨拶だとか数の数え方など基本的な事柄や、タイ語の発音など何も知らない状態で、とにかく文字の書き方、読み方の法則というのを徹底的に頭に叩き込んでいきました。単音節の単語が多いことや、同じ発音でも綴りの違いで意味が違う語があることなど、文字の習得というだけでなく、タイ語のイメージみたいなものも少しだけつかめるようになっていったように思います。暗号がだんだん読めるようになるようで、達成感もありました。

当時よく食事に行っていたタイ料理店がありました。その店のタイ人オーナーは、お客さんとチェキで写真を撮りお店の壁にペタペタと貼っていくのが好きだったのですが、お客さんに写真の余白部分にコメントを書いてもらうのですね。それで私もコメントを求められたことがありました。そこで初めて他人に対して下手くそなタイ文字を披露したことを今でもよく覚えています。

―อร่อยค่ะ (アロイカー=美味しいです)

また一歩前進したような気がしました。

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