第二十一話

カオマンガイ=蒸し鶏のせご飯。日本人が大好きなタイ料理一皿メニューのひとつです。しかし今回のお話は残念ながらタイ料理のお話ではなく、タイ語の発音について少し書いてみたいと思います。また今回はタイ語の声調(音の上がり下がり)には触れません。

我々外国人がタイ語を勉強するときには、発音記号を用いてタイ語を表記するのが鉄則です。何故ならどうやってもタイ語をカタカナで書き表すことは出来ないからです。タイ語学習書の中にはタイ語をカタカナ表記しているものも少なくありませんが、タイ語を上手に話せるようになりたいと思う方にはお勧めしません。タイ語の学習において発音の練習は非常に重要で、初めに間違った発音に慣れてしまうと、後から修正するのは難しくなります。タイに何年住んでいても発音が最初の頃から上達していないという日本人は山ほどいます。

さて、カオマンガイに戻ります。カタカナでこれを読んだ時のガイの“ガ”と、タイ語の発音ไก่(kài)の“ก(k)”は全く別の音です。日本語の“ガ”は少し鼻にかかった濁音で、タイ語の“ก(k)”は閉めた喉を開けて出す、息の漏れない音です。タイ語を学習するときにカタカナは切り離したほうがいい理由はこういうことからです。

発音が難しいから、タイ語は難しいと思う人もいるかもしれません。けれど日本語の発音のほうがむしろ難しいのでは、と思う今日この頃です。日本語では同じ文字でも語頭と語中で音が違ったり、促音(小さい“っ”です)の前後で変わったりするからです。先ほどのカオマンガイの“ガ”とガッコウの“ガ”だって、厳密には違う音なのです。これをタイ人に説明するのは至難の業です。違う音なのに同じ文字を使うわけですから、日本語を学習する外国人にとってはとてつもなく厄介だなぁと思うわけです。だからタイ語の発音だけが難しい、というわけではないと思います。タイ語がカタカナで表記出来ないのと同様、日本語だってタイ語表記することは出来ません。例えば日本語の“カ”は単語により、タイ語の“ก(k)”でもなく“ค(kh)”でもない、ちょうど間くらいの音で発音する場合があるからです。

日本語には母音が五種類しかないのに、タイ語には九種類(音の種類)もあるといって尻込みしてしまう人もいます。でも最近では日本語の発音も段々と変化してきて、もはや日本語の母音は五種類だけではないような気がしてきます。“あ、い、う、え、お”のたった五種類の母音でさえ、正確に発音されていないと思います。特に若い女性が発する日本語には“ɔ、ə、ɯ”の母音も含まれていて、実に複雑です。“し”や“ち”の発音も微妙に変化してきています。一般人はともかく、若い女子アナのそういった発音を聞くにつけ、何かがっかりしてしまうのは私が年を取ったせいかもしれません。いずれにしても言葉は生きています。ですから、恥ずかしがらずにどんどんタイ人とタイ語で話して、生きたタイ語に触れることがタイ語学習の最良の方法だと思います。

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